大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和33年(う)1500号 判決

被告人 叶田義之

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六月に処する。

原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人等の控訴趣意記載の論旨一について。

よつて按ずるに、原判決はその事実摘示において「被告人は、兼坂佳二及び大沢利夫両名が昭和三十一年九月十二日頃自動車を盗む目的で東京都渋谷区幡ヶ谷方面へ赴く際同行し、同区幡ヶ谷本町三丁目五百五十二番番ビリー・ダブリユウ・エバンス方居宅附近道路上において兼坂、大沢が同所に駐車中の右エバンス所有にかかる一九五三年型フオード普通乗用自動車三A―二五〇七〇号一台を窃取することを知り、その場で兼坂から頼まれて見張をなし、かくて被告人、兼坂、大沢三名共謀の上右自動車を窃取したものである」旨を判示している。しかしながらその挙示する証拠によると、被告人が兼坂および大沢の両名が自動車を盗みに行くものであることの情を知りながら同人等に同行し、判示窃盗の現場で兼坂から頼まれて見張に立つた事実はこれを認めることができるが、被告人において兼坂および大沢と共謀して判示自動車を窃取するために前記見張をなしたものであるとの事実はこれを認めることができない。

このように原判決は、その挙示する証拠によつては被告人につき判示共謀の事実を認定することができないのに拘らず敢えてこれを認定しているのであつて、原判決にはこの点において理由不備ないしくいちがいがあるといわなければならない。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて被告人および弁護人等の其の余の論旨についての判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第一項により原判決を破棄し、同法第四百条但書により当裁判所は自ら左のとおり判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和三十一年九月十二日頃兼坂佳二および大沢利夫が共謀の上、東京都渋谷区幡ヶ谷本町三丁目五百五十二番地ビリー・ダブリユウ・エバンス方居宅附近道路において同所に駐車中の右エバンス所有にかかる一九五三年型フオード普通乗用自動車三A―二五〇七〇号を窃取するにあたり、右兼坂から頼まれてその場で見張に立ち、同人等の右窃盗行為を容易ならしめてこれが幇助をしたものである。

(以下略)

(裁判官 岩田誠 八田卯一郎 司波実)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例